フライブルグ大学に森林学を学びに留学している竹内景子さん(通称・たけこ)の留学記です。直に感じたドイツの最新事情やドイツで感じたことなどを紹介しています。

2002.3.8

第2回 フライブルグ市のVaubanにおけるまちづくり  

第1回 ドイツ留学を決めるまで

第2回 フライブルグ市のVaubanにおけるまちづくり

ごあいさつ

こんにちは!ドイツはフライブルグより久しぶりのレポートです。冬学期中に滞っていましたが、心を入れ替えてたくさんのことをお伝えできるようにがんばります。
さて今回は、フライブルグ市の新しい住宅地についてのレポートです。住宅の不足は日本だけでなくここドイツでも移民の増加、住居における平均使用面積の増加、人口の増加、また早いうちからの独立などの理由によって約180万戸もの住宅が不足しています。日本の分譲住宅という傾向とは逆に、大きなコンセプトのもとで設計段階から建築家とコンセプトを打ち出して、建設してゆくのがドイツの場合はほとんどです。今回ご紹介するVauban地区では住居にとどまらず、まちを住民がつくりあげています。Vaubanの活気ある風景を届けられたらと思います。

新しい住宅地 Vauban

フライブルグ市の旧市街には色とりどりの、そして高さも様々な建築が見られます。ひとつひとつの建物をみると、バラバラに見えますが、不思議と一つの町の風景として形をなしているのです。そして今、その風景を現代化させたかのような、町並みを旧市街から南西のVaubanにみることができます。

○開発の始まるまで

1992年9月、ドイツ統一のあおりを受け40年という歴史を残し、フランス陸軍がVaubanより撤退しました。これは、住宅難で有名なフライブルグにとって一度に34haの住宅地を確保できる大きなチャンスになりました。市議会でこの土地を宅地利用することが大多数の賛成票によって可決され、ドイツ連邦国より4000万ドイツマルクでフライブルグ市が買い取ることになりました。

○Vaubanのコンセプト

Vaubanはいろいろな住宅形式を見ることができます。2戸いち、長屋形式、コーポラティブ住宅…この多くの種類の住宅提供はまた様々ファサードを生み出しました。それはまるで旧市街を未来化させたような光景です。


住民主体で行われるこの住宅地開発を大きく6つのコンセプトに分けてご紹介します。

1. コーポラティブ住宅

全体の3分の1にあたる40もの住宅がコーポラティブ住宅形式(注1)をとっています。小さな子供のいる若い入居者は、とくに積極的にこの形式をとっています。フォーラムVaubanの広告活動によって集められた購入者は、購入予定地を決め、同じ棟の入居者の会を作り、その建築がどのようなコンセプトによってたてられるべきかを検討します。次にフォーラムを通じて、自分達のプランに会う建築家を見つけ、実際に計画を進めていきます。コーポラティブ住宅の長所として、建設費用が節約されること(平均30%の削減が可能)、自分達の意見が反映されること、入居前から時間をかけて知り合えることなどがあげられます。建設途中では住民同士のぶつかり合いもあるようですが、ほぼすべての棟で密接な関係が築かれています。

2. 低エネルギー住宅

環境問題は他人のことでなく、自分達のできること!というコンセプトにより、Vaubanは建築と環境問題を大きく結びつけることに成功し、現在ではたくさんの視察団が訪れるほどになりました。Vaubanに家を建てる全員がエネルギー消費を年間65kwh/uという条件を義務づけられています。これは6.5l/u(使用面積)の化石燃料を使用したときの数値になります。この数値は法律で定められた規定より厳しくなっているのです。(今年2月に建築法が改正され、この数値がドイツ全土で適応されるようになりました。以前は10l/u。(この数字は年間を通じ19度以上を保つとして計算される))
この低エネルギー建築は(ドイツは年間を通して湿気が大変少ない)伝統的な建設方法に比べて少ないエネルギーで熱を保つことができ、結果として化石燃料の使用を減らし、有害物質が環境に及ぼす負担を減らすことができます。フライブルグ市は住宅だけでなく、敷地内の幼稚園、小学校にもこの条件を要求しています。
また個人宅としてVaubanに住宅を所有する人は、この協定を下回る数値、5リットルを目標に定めています。また年間1.5l/uのみのエネルギーを必要とするパッシブ建築も建設されています。
それらよりさらにエネルギー消費について考えられたプラスエネルギー住宅はVaubanの一つの特徴になっています。ドイツでは再生可能エネルギー法により市民が太陽パネルなどによって生産する電力を電力会社は買い取らなければならないので、住民は住まいの屋根などに設置されたソーラーパネルから得られるエネルギーを電力会社に売っています。パッシブに熱を取り込む工夫もされているので、実際に使用される電力量より、ここで作られる電力量の方が上回り、年間2万円ほどの収入にもつながっています。

3. 雨水

できるだけ早く側溝へ!というのがたくさんの人が考える雨水への考えですが、Vaubanではできるだけ長い間敷地に雨水をとどめるように努力しています。そのため、雨水用の側溝は作られていません。屋根は緑化され(屋根勾配14度以下は屋上緑化されている)、雨水を吸い、そして自然に吐き出しています.また地下水層に雨水はためられ、各住まいの庭へ、学校ではトイレに使われています。

4. バイオマスの利用

Vaubanのすべての住宅は現在一時措置として集中暖房で管理されています。ドイツでは消費電力量より化石燃料による暖房の熱エネルギーに頼る比率のほうが高く、これを考慮して暖房は、2002年より木材チップの高効率コージェネレーションプラント(CHP)によるバイオマスの利用によってまかなわれることになります。

5. 交通機関

新しい町の建設には、車は欠かすことのできない要素です。Vaubanの計画で車と住民の関係をどう位置付けるかが大きなテーマになりました。若い家族が多いこの一角では、子供を自由に遊ばせたい一方、駐車場が遠いのは大変不便です。そこで、Vauban住民に向けて作られたスーパーにコミュミティー駐車場を設けることにしたのです。駐車中から各住宅までは、遠くても5分あるけばいいのです。車を持たない住民はそのスロットを買うことを強制される事もありません。フライブルグの中心からも非常に近く、バスで5分程度です。2006年には市電の乗り入れも予定されています。今Vaubanでは、子供が道路で遊ぶ姿がおおくみられます。

6. フォーラムVaubanの役割

社会法人フォーラムVaubanはこの地区開発のために、計画、建築だけでなく住民の交流の潤滑油としての働きをとして活動を行っている市民団体です。主な活動として、地区の統括、学校などのインフラ開発、建築用地の販売、Vauban新聞の発行、イベントの企画など、つまり全体のコーディネーター役として活動しています。メンバーのほとんどは実際にVaubanに住み、住民代表としても大きな意味を持っています。
 コーポラティブ住宅建設では市民にこの計画を知らせるため街での宣伝やポスター作りなどから始め、購入した住民グループと建築家の仲介役、住民同士のトラブルに関するアドバイスなど、活動は多種に及びます。

おわりに

レポートに際し、何度かVaubanに足を運びましたが、いつでも子供達の遊ぶ姿が住宅地内の道で見られます。まだまだ街路樹などは若く緑が少ない印象を受けますが、数年後にはよく茂ったの木々がまちに彩りをそえることになるでしょう。自分の住居をまちづくりと一緒に考えるというコンセプトに私は大きな魅力を感じています。また比較的同世代の多いこの地区で数十年後、どのような現象が起こるのか、それにたいして市やフォーラムはどう持続可能なまちづくりを続けていくのか、興味深いテーマです。


フォーラムやフライブルグ市ではホームページ(建設にかんする最新情報など)も作成しています。

フライブルグ市    

http://www.quartiervauban.de (ドイツ語)

社会法人フォーラムVauban

http://www.forumvauban.de  (ドイツ語、英語)
http://www.vauban.de    (ドイツ語、英語)

今回のレポートに際し、フライブルグ市市役所土木建築課、Vaubanフォーラムに直接お話を伺わせていただきました。丁寧な説明と資料の提供を心より感謝申し上げます。

(注: 今回のレポートの中に出てくるコーポラティブ住宅という定義について。 VaubanではBaugruppeいわゆる集合建築として呼ばれていますが、建築設計段階より住民の意見によって建設されること、長所など当てはまることから、コーポラティブ住宅として紹介しました。)

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