エコロジー住宅市民学校は学生ボランティアのみなさんにお手伝いをしていただきながら運営しています。講義録では、学生の視点から講義の内容を振り返ります。ご意見、ご感想お待ちしております。

今年度の市民学校は、座学では体得できない体験を重視しておこなっています。今回の講義の集合場所は小田急線・経堂駅の改札。まず夏の暑さの原因を探りに街歩きに向かいました。参加者は3グループに分かれて、「放射温度計」という物の表面温度を測定する機械を手に、「一番暑いところ」「一番涼しいところ」探しをおこないました。

実際に暑さの体験をした後にいよいよ講義が始まりました。それでは講義の模様を学生スタッフによる講義録にてご紹介します。


市民学校主宰 甲斐徹郎のお話より

日本大学生物資源科学部 生物環境工学科  横田 京子

今回の講義は甲斐邸で行われました。スタッフを含め30人近く集まった甲斐邸は、皆から放射される熱で一気に室温が上昇しました。しかしクーラーを使わず、扇風機のみを使っているだけにも関わらず、我慢できないほど暑くもなく、しばらくすると心地よい環境となりました。真夏の日中、都会のど真ん中でクーラーを使わずに過ごすという、現代の世の中では考えられない甲斐邸の生活環境をテーマに講義は始まりました。

甲斐さん曰く「夏だから暑いというのは嘘であって、同じ日でも場所によっては気持ちよさが違い、その気持ちよさは意図的に創ることができる」ということです。そして、甲斐さんは夏涼しく暮らす原則として3つあげました。

1.外の熱をいれない

窓際に何もしない室内は太陽の熱によって、どんどん暖められ、温室のようになってしまいます。そこでたいていの人はカーテンを閉めます。しかしカーテンを閉めただけでは、実は日差しによって暖められたカーテンから熱が放射され、外からの熱を遮ることはできないそうです。そこで、最も効果的なのは、窓の外側に緑のカーテン(すだれでもある程度の効果はあるそうです)を作ること。ひよけをできるだけ窓より遠くに設置して外の空間に日陰をたくさん作ることで、外からの照り返しを防ぐことができるそうです。        

2.冷気を作る環境を作り上げる

街歩きをして体感したとおり、木陰や樹木のたくさんある場所は心地よい風が吹き、他の場所に比べるととても涼しい環境を作ります。これは、ひなたで熱せられた空気で上昇気流が起こり、日陰側に下降気流が発生し涼しい風が吹くからです。そこで、樹木をたくさん植えることで、心地よい空間が出来上がります。また、甲斐さんは「樹木は水のかたまりである」と表現しました。太陽が当たれば当たるほど、根から蒸気を出し、どんどん冷気を作り上げます。つまり、樹木は自然の空調装置として利用できるというわけです。  

3.次の日の室温を夜のうちに準備する

朝起きたら窓を開け、夜になったら窓を閉めるというのが一般的な考え方ですが、クーラーなしでの生活を送るためには、夜寝る前に窓を開け、朝起きたらすぐに窓を閉めるというのが基本だそうです。夜のうちに冷たい冷気を取り込み、その冷気を蓄熱することで室内は冷やされ、日中窓を閉めておくことでその冷気を保つことができます。夜11:00〜朝7:00くらいまでが、冷気を取り込むのに最適な時間ということです。この窓の開閉のタイミングは、日々の生活の中で身につけることができるそうです。

この3つの原則を最低限行うことで、夏もクーラーなしで快適に過ごせるようです。最近では、家を建てるとき、元あった樹木を切り倒し、建てられる限り家を建て、そして小さな樹木を植え、そしてクーラーで涼しさを求めるというのが一般的になっています。しかし、周囲のポテンシャルを下げずに利用して、家作りを行っていく必要があると甲斐さんは強くおっしゃいました。

そして、最後に、参加者の方から「普通のマンションでもクーラーなしの生活は可能ですか」という質問がありました。この質問に甲斐さんは次のように答えてくださいました。「普通のマンションでは、ベランダに緑のカーテンを作るのを嫌がる人もいるかもしれません。しかし、諦めずに出張セミナー等もあるのでマンションで開いてみるのもいいかもしれません。個人個人の心をつなぎ合わせれば、すばらしいコミュニティができ、すばらしい街づくりができるのです。」

現代は、どんなに暑い日でもクーラーのスイッチを入れるだけで、涼しい環境を作ることができます。実際、私もそんな生活を送っています。けれど、甲斐さんのお宅にお邪魔してみて、クーラーの涼しさと自然の涼しさの心地良さの違いを体感しました。自然風はクーラーの風に比べたら、心地よさが全くちがいます。そして何よりも驚いたのは、甲斐邸の室温は28℃だったということです。クーラーをつける時、わたしは24℃くらいに設定します。でも実際は28℃でも快適に過ごせるものなのです。

甲斐さんが教えてくださった生活方法は決して難しい方法ではありません。少し生活を改善するだけで、健康的で快適な環境を自分で作り上げることができます。ぜひ私もクーラーなしの快適な生活を始めてみようと思います。

本当の快適さを求める生活、皆さんも始めてみてはいかがでしょうか?まずは、すだれをかけるところから。


正木覚先生のお話より

日本大学 生物資源科学部 生物環境工学科4年 松村由貴

現在皆さんが暮らしている家・街は心地の良い場所でしょうか?

今回、正木覚先生の講義は"こころ(思い)"がキーワードになっています。

都市環境が悪化していると唱えられるようになって久しいですが、その昔「江戸」は海外の人からガーデンシティーと呼ばれるほど択山の庭園が存在し、路地には植木鉢が置かれ美しい緑があふれる街で、300万人もの人々が自活できていたと言われています。

しかし現在、利便性だけを求めて発展を続けてきた私達は、その代償として自分達を苦しめることとなり、住みにくい環境に住まざるを得ない状況を引き起こしています。

現在、都市部では狭い庭しか確保できずに住居のみで内側で完結してしまっています。例えば、夏場には気密性の高い家でクーラーを使い、熱を周囲に排気しています。その結果、自分達が苦しむという状態に陥っています。植物には周囲に微気候をつくりだす働きがあり、狭いスペースでも植物を植えることによりその働きを生かすことができます。また、気候緩和作用だけでなく、人の心を和ませる効果も忘れることは出来ません。

では、植物を植え庭を造ることによって人の心にどのような変化が起こるのか、正木先生のお話より幾つか紹介します。

・ ある事務所前・・・一切植栽がされていなかった事務所前に花壇を作り花や樹木を植えた。徐々に成長し、4年後にはうっそうと茂り事務所の看板や外壁が見えなくなるほどになりました。その頃になると今までに無かった事が起こりました。それまでは素通りしていた人たちが振り向くようになり、花の手入れをしていると声を掛けてくるようになったのです。(花がコミュニケーションを図るきっかけとなったのですね。)

・南極の庭・・・ある家族の庭を造ることになったそうです。そこの家のご主人は以前南極観測船"しらせ"に乗っていた体験のある人で、家族にもよくその話をしていたそうです。正木先生は庭造りをする際に住人の"思い入れ"を大切にするということで、この時もご主人の思い入れを表現することに力を注ぎました。なんと、ベランダを船のデッキに見立てて、ご主人が南極から運んできた石を流氷のように配置し、庭全体を南極の海のイメージにしたのです!自分の思いが凝縮されたこの庭を眺めながら、今もご主人はニコニコしているそうです。(自分が住んでいて楽しく、気持ちのいい住まいが基本なんですね。)
 
"環境"というと大きな話で身構えてしまいがちだが、正木先生はまずは植物と接することなど楽しみを先行させて、徐々に環境が良い方に転がるきっかけを作ることから始めようとおっしゃっています。

また、人にはそれぞれ違った背景があり、その数だけ心地よさの形や思い入れがあります。
個人がその思いを込めた庭で植物と接し、庭を造る楽しさを味わう・・・そんな思いがたくさん集まって街並みを造っていくことが出来たら、住みよい街になっていくのではないでしょうか。

・ 感想
"心地よさ"というものは日常生活の中で体や心で感じているはずなのに、あまりに自然なものなのでつい見逃してしまいがちなものなのですね。今回の市民学校で、人にとっての心地よさとは何なのか再認識しなければならないと感じました

●正木覚さんの最新情報

「やまがた花咲かフェア’02」寒河江会場のテーマ庭園の一つの設計を担当しています。この展覧会は8月26日まで開催されています。

正木覚さん設計の庭園の紹介 <家族・語らいの庭>

異なった家族構成の4つの世帯の庭をつないで、ひとつの街並を形づくっている。それぞれの思いをもった家族が、寒河江の街で自分たちの思いをこめて庭づくりをしている。各庭では寒河江に暮らす多様な家族の、これからの新しいライフスタイルを反映した庭を提案している。

http://www.hanasakafair.jp/sagaemidokoro/kazoku/kazoku.htm

正木さんのインタビュー記事です。

http://www.hanasakafair.jp/g-news/g-news2/g-news2.htm


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